【大人向けの童話】謎行きバス-19-
「これは私の部屋にいた……なんだっけ」
「ジムグリです」
「という毒のないヘビだ。この博士にすっかりなついてしまったらしいんだな。というわけで、今日は特別講師に来てもらった。隅除(すみよけ)小学校5年、花村雄一くんだ。みんな知っての通り、当センターには、あまり虫にくわしいスタッフがいないからね。2つとなりの県から、わざわざ来てもらった次第だよ。そしたら見ての通り、ヘビだって一発で慣れてしまった。どうだいすごいだろう?」
へぇ~、という、なかば感心のまなざしに、子ども達が変わった。
「今日は先生に園内を好きなように歩いてもらう。みんな質問があればどんどん聞いて。先生連れ出してどこかに行ってもいいぞ」
「え?本当ですか?」
2年か3年か、男の子が言った。パッと見たところ、「ぜひ!」という感じなのは、そのくらいの学年の子が多い。高学年の子は、あまり気が乗らないようだ。まぁ確かに、同じ学年か、ヘタしたら低学年の自分を、〝先生〟などとは呼びたくないだろう。
「ただしお昼を食べてからな。日暮れまでにきちんと帰ると約束出来るなら」
「はーい」
「はーい!」
「せんせえよろしくおねがいしま~す」
あっという間に話が決まってしまったことに、雄一はあ然とした。オレ何も言ってないのに。
「というわけで雄一君」
センター長がいきなり呼んだ。
「は、はい」
「任せるから、まずは君の好きなように、このしせつで虫を探して見てくれないか……ここで君ならどんな虫を探す?」
「そうですねぇ」
雄一は考えた。野山だ。雑木林だ。まずなんと言ってもカブトクワガタ。それに、プールに住みついているという水生昆虫類も見てみたい。山すそに多いチョウの仲間もターゲットだろう、カラスアゲハにオオムラサキあたりか。
ただ、雑木林の探検は時間をかけたい。
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