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【大人向けの童話】謎行きバス-21-

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 雄一のうでをはなれ、すばらしい速度で、音もなく、身をくねらせ、ホールの片すみへ、文字通りつっ走る。
 そのスピードと勢いは、うでにいた時の姿がウソのような、ありのままの野生の姿。
 野ネズミが気付いてにげ出そうとした。
 しかし、ワックスでつるつるのホールのゆかは、ネズミにはすべるようだ。
 全身が足であるジムグリはわけなくネズミをとらえ、そのアゴがまさかと思うほど開いて、ほぼ一口でくわえこんでしまう。
 くわえこまれてなお、口の中で動く野ネズミ。口からはみ出して、めちゃくちゃなまでにふり回されるしっぽ。
 そのしっぽの動きはネズミの抵抗(ていこう)。しかし、ネズミの体は、ゴリゴリという、こわいような音と共に、次第にヘビの中へと送られ、合わせてしっぽが口の中に消え、見えなくなった。
 ごくり。
「うげぇ!」
「すげー」
 表情からする子ども達の反応は二分。気持ち悪い、かわいそう派。そしてヘビに味方する派。
 ジムグリは〝ごちそうさん〟とばかりに、舌を一回ぺろりと出すと、ゆか面近くの通気用窓から、外へ出て行き、姿を消した。
 しーんとしたふんいきが、子ども達を包む。
「ほう、すごいのが見られたねぇ」
 センター長はまず一言。そして立ち上がって、着ている背広や手のホコリを、パンパンとはたく。
「かわいそうだと思った人」
 女の子を中心にほぼ半分の手が上がる。
「ヘビってすげーなぁと思った人」
 こっちは男の子が多いか。古来より、猛獣(もうじゅう)をかりでしとめる、というのは、勇気の証明として、王族や英雄(えいゆう)が好んで行ったが、この反応の差は、そうしたところにもつながっていようか。
「雄一先生はどう思ったね?」
 センター長は雄一に聞いた。
 どうもなにも……
「はい。そうですね。ネズミはあのヘビのエサですもん、ふだん見えないものが目の前で見えた、ただそれだけだと思います」
 

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