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【大人向けの童話】謎行きバス-23-

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 受け取った網を水中にしずめる。上に向けて静止させ、通過するのを待つことしばし。
 横切る黒いかげ。
 体が勝手に反応する。8年間の虫取りの経験が、自動的に〝網〟を動かす。
 ばしゃっ!
「やった!」
 下級生たちから声が上がる。持ち上げた網の中でもぞもぞ動く姿。
 早速取り出す。
 ゲンゴロウ。図鑑(ずかん)の中だけのマボロシの存在かと思った、大形の水生昆虫。
 雄一にとっての〝ランキング〟は水の中のカブトムシに相当する。実際、甲虫(こうちゅう)というくくりで見れば、同じ仲間である。
 手に持つと、泳ぐ力をアップするために毛の生えた脚をもがいて、にげようとする。その力の強いこと。しっかり持っていないと取り落としそうだ。それから、つやつやと光り、手のひらとほとんど同じくらいの大きさを持った、長丸形の体の美しさ。
「へぇ……」
 しばらくながめてしまう。ふつうなら容器に入れてお持ち帰りだ。でも多分、こいつは、このプールの中で、のびのび泳いでいた方がいいのだろう。
 下級生たちがのぞきこんできた。
「でっけーなぁ」
「せんせーすげーなぁ。オレらつかまんねーもん」
「ほい」
 雄一は男の子の一人の手のひらにゲンゴロウを乗せた。
 ちなみに、これが魚類であると、水から出すと死んでしまうわけだが、水生昆虫は空を飛んで別の水場へ移動するほどであるので、そういった心配は全くいらない。
 ゲンゴロウが男の子の手のひらをごそごそ動く。そもそも泳ぐ脚なので、歩く動作はあまり格好の良いものではない。
「わぁくすぐってぇ……あれ?案外軽い?」
 そのことなら。
「背中がへこんで、翅との間に空間が出来てるんだ。だからでしょ。そこに呼吸するための空気をためるんだ。その空気のおかげで水中でも身軽だし、長い時間もぐっていられる。だから気門の穴もそっちに開いてる」
「きもん?」
 

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