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【大人向けの童話】謎行きバス-25-

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 ショウリョウバッタを水から出す。バッタは〝何すんのよ!〟と、おこったかどうか、水にぬれた目や触角(しょっかく)を、必死に前脚でふきふき。
 ゲンゴロウもろともにがす。
「へぇ、本当に博士だなぁ」
「え?でもこのくらいなら図鑑に書いてない?」
 雄一が持っているのは〝原色日本昆虫図鑑〟。上下2巻に分かれ、ラテン語の学名も書かれた〝ドカーン〟とばかりに存在感のあるすごい本である。
 ただし50年も前のもの。お父さんが東京神田(かんだ)の古本祭りで買って来てくれたものだ。
対し、しせつにあるのは〝ようちえん向け〟とかで。
「尚子おばさんがキャーって言うから……」
「あまりくわしいのとか、たくさん絵がのってるのは、気持ち悪いって…」
 彼らの表情は、さえない。
 だったら。
「それじゃ今度オレの……うおギンヤンマだ!」
 雄一は視界を横切るいっしゅんで、その虫を見ぬいた。
 証(あかし)は、胸の部分の水色だけで十分。
 ギンヤンマ。赤トンボなどより一回り大きいトンボである。高速で飛ぶことで知られる。
 雄一は網を持った。これとアオスジアゲハだけは、どうやってもつかまえられない。
 ヤゴから育てれば成虫そのものは手に出来るだろうが、それではプライドが許さないのである。〝飛んでいる〟のをつかまえたいのだ。
 しかし。
 雄一は2度3度と網をふるったが、ギンヤンマはまるで小バカにするがごとく、網のわずか数センチ先をかすめ飛んでかわし、挙げ句にはプールから飛び去ってしまった。
「にげちゃった」
「あれだけはどうやってもつかまらなくて」
 すると。
「ねーせんせぇ」
 プールの下から、別の男の子の声がかかった。
 
 
「はい?」
 鉄さくの上から下をのぞきこむ。
「これってアリジゴク?」
 男の子が、その妹だろうか、幼い顔立ちの女の子と立っており、プールのカベの下方を指差している。
 

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