【大人向けの童話】謎行きバス-26-
そこは、確かに位置的にはアリジゴクがいそうな場所。ただし図鑑の記述であって、実際に見たことはない。
雄一はプールの上から下級生たちと飛び降りた。
下は砂地。雄一はそれだけではは~んと思った。まずマチガイなく、そこにいるのはアリジゴク。
果たしてカベ沿い、兄妹の指差す方向を見ると、砂に作られた、小さなすりばち。
そばに生えていたエノコログサ(ねこじゃらし)を引っこぬき、すりばちの中心をつん。
手ごたえあり。
「何か動いた?」
エノコログサを引き上げがてら、すり鉢の中に手をもぐらせる。
この遊びをアリジゴクつりという。別の図鑑で見て覚えていたのを、実行してみたまで。
白っぽい虫が出てくる。まず目立つのはギザギザした大きなアゴ。クワガタを思わせるスタイルで、その大きさは体のサイズと同じくらい。それは、人間で言うなら、胴体と同じサイズのクワガタみたいなアゴが、首から上についている、そんな感じ。
巨大(きょだい)アゴ生物。これで図体がデカければ、相当コワイ怪獣(かいじゅう)状態のはずである。
でも、その体は指先に乗る程度。
「アリジゴクちゃんで~す」
雄一は言って、手のひらに下ろした。
アリジゴク。ウスバカゲロウの幼虫。
カゲロウが成虫でいられるのは数日から1週間、というのはよく知られているが、幼虫はこのアリジゴクの状態で、2~3年を過ごす。その過ごす長さは食べられるエサの量で変わる。エサが豊富なら早く成長するが、少ないと長くなる。ちなみに、1年もの差が出ることで分かるように、エサが少ない個体は、空腹でエサを待つ期間が長くなる。その期間が1ヶ月に及ぶ場合もあるという。
「指出したらはさまれそう」
「ツメの間とかに歯が入ったらマジ危険かもね」
手の上でごそごそ後ずさり。アリジゴクの移動はバック一本やり。
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