【大人向けの童話】謎行きバス-27-
「虫とかってさぁ、手のひらとか乗せるとすぐウンコとかしねぇ?」
自分と同学年くらいであろうか。いつの間にか背後からのぞきこんでいた、男の子が言った。
「こいつ、腹の中ほとんどウンコ」
雄一はアリジゴクの腹部をエノコログサでつんつんして言った。
「マジ?」
「なにそれ」
「ずーっと土の中で待ってるわけだから、ウンコするところがない。それと、つかまえたアリの体液を吸うから、ウンコの元になるもの食わない。だから、ウンコが少ない。成虫になるとき初めてウンコする。それまで腹にためこむ」
雄一は言うと、アリジゴクを砂の上に下ろした。
アリジゴクが、早速そのアゴで、砂をはじくようにして穴を掘り始める。尻(しり)から砂にもぐると、体の上に砂がサラサラ落ちてくるので、そのままアゴではじき飛ばすのだ。
このくり返しで、穴を深くして行く。
「おもしれぇなぁ」
「あとは放っておけば元通り」
雄一はアリジゴクの作業が順調に進んでいるのを確認すると、立ち上がった。
気が付けば背後には子ども達が何人か。
「あ、せんせーだ」
向こうで声がし、自分を見る幼い目。
女の子が何人か。
「これ、何?」
「きれいな虫」
土の上を指差す。
「あ、飛んだ!」
見れば確かに何かが地面から飛び立ち、つーっと向こうへ、そして降りる。
翅のきらめきで雄一は何か知った。
「あ~近づかないで。また飛んでっちゃうよ」
雄一は、網が届くぎりぎりまで近づき、網をふるう。
素手だと難しいが、網があれば、わけない。
網の中でバタバタ暴れ回る。にげ出さないように網ストッキングの根元を手でにぎり、しぼるようにして、すみの方へ追いつめて行く。
進退きわまった。緑に赤に、いろんな色がキラキラ光るきれいな背中。
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