【大人向けの童話】謎行きバス-28-
指先に乗るサイズ。なのに似つかわしくない、どう猛(もう)そうなアゴ。そこだけ見ればメスのクワガタのようだ。そして、サングラスをかけているみたいな、大きな複眼(ふくがん)。
「ハンミョウだよ。人の歩く先を先回りするみたいに飛ぶから、道教えともいう」
「へぇ~」
「きれい」
「あ、かみ付かれると痛いよ。これの幼虫もアリジゴクみたいに土の中にいて、近づいた虫をこう、ガッと」
雄一は手指を使って、体をのばしてエサをつかまえる、という様子を説明した。ちなみに、ハンミョウの幼虫はイモムシタイプで長い穴の中にひそむ。穴のそばを虫が歩くと、スケートの〝イナバウアー〟よろしく、体のけぞらせて穴から現れ、親ゆずりのでっかいアゴで虫をつかまえるのだ。
「にがすよ」
「うん。ハンミョウさん。ばいばい~」
手をつっこんで指先に乗せ、網から出してやると、大あわて、という感じで、ハンミョウは飛び去った。
つーっと飛んで少し先に降りる。
女の子たちは面白そうに、ハンミョウを追って走って行った。
その向こう、子ども達といっしょにしゃがみこんでいるセンター長の姿。
センター長が自分に気付いた。
「先生に聞いてごらん」
「せんせー」
「せんせーこれってサナギ?」
「あ、センター長。アリジゴクってウンコしないんだって」
「ほうそうかい。おやこらまたずいぶん探検隊が増えたなぁ」
センター長は笑って言った。
そのやりとりに雄一はすごいと思った。ふつう、大人の人はいきなりアリジゴクのウンコの話をされたりしたら、面食らってイヤがるものだが。
「どうしてウンコしないのか教えてもらったかい?……ところで先生、この小さいマユがモンシロチョウのサナギかどうか、見てもらえるかい?」
センター長は、下級生の男の子にたずねながら、別の女の子が持っている飼育用水そうを指差した。
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