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【大人向けの童話】謎行きバス-29-

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「これ」
 と、女の子が持ち上げた水そうの中には、キャベツの葉っぱと。
 すみっこで、がんじがらめに糸がからまり、動かないモンシロチョウのアオムシ。
 アオムシの体の前には、黄色い糸の小さなマユが、ズラズラいくつも並んでる。
 あーあ。雄一が最初に感じたのはそれ。
「これ、幼虫を見つけて取ってきたの?」
 女の子はうなずいた。
 だったらまちがいない。
 残念ながら。
「あのねぇ、これ、アオムシ サムライ コマユバチってヤツに、体の中食われちゃったよ」
「え?」
 女の子は泣き顔。
「ああ、ちがうのかい」
 センター長が口をはさんだ。アリジゴクのウンコについての説明を聞きながら、こっちにも耳をかたむけていたわけだ。
「ええ、寄生バチにやられてます。この小さいマユ一つ一つがそれぞれハチになります」
 女の子は泣き出してしまった。
「チョウチョになると思ったのに~」
「そう泣かないで。ぼくも良くやられたよ」
 雄一は言った。
「モンシロチョウってなかなかうまく行かないんだ。卵からなら大じょうぶだろうと思って取ってきても、半分死んだりしてね。そのせいかも知れないけど、モンシロチョウは卵を百以上産むんだ。生まれてきて、生き延びて、ちゃんとサナギになって、そして成虫のチョウチョになる。その全部が命がけ」
「ほぉ。そんなに死ぬかい」
「ええもうそりゃあっさりと。なんで?ってずいぶん思ったんですが、その代わり卵たくさん産むって聞いて納得しました。選ばれて選ばれて、本当に体がじょうぶで、運のあるやつだけが生き残るんだって。生きているだけすごいんだって。だからそれはしょうがないし、君のせいじゃないよ。生き残るだけで大変なことなんだから。だから今度は、卵を見つけて10個くらい取ってきてごらん。3つか4つはサナギになるよ」
 

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