【大人向けの童話】謎行きバス-30-
それは雄一の経験に基づく、単なる実感。
しかし、センター長は感心したように、目を丸くして大きくうなずいた。
「君が命を大切にあつかう理由がよく分かった」
「……そうですか?」
言いながら、雄一は水そうのすみっこに文字通り〝巣食った〟寄生バチのマユを、アオムシのなきがらごと、棒でからめとった。
「そうだよ」
センター長が言う。
「選ばれて生きているという実感があるから、むやみに殺せない。君も『命を大切にしなさい』っていうのを良く聞くと思うけど、そう言われたから殺さないだけ、ではダメなんだ。重みがちがうんだよ。ゲームの主人公が死なないようにするのとは、わけがちがう。
おかしな話だが、〝死ぬ〟ってことがどんなことか分かってこそ、〝生きる〟ってことの重さに気付くんだよ。その点で最近はペットとか……」
「センター長!ヘビがいた!」
「すっげーでっけーやつ!」
男の子たちの声が、割って入った。
8
センター長もふくめた、ご一行様で向かったのは、運動場のすみっこ。そこは雑木林のはしっこに当たり、小さなガケが立ち上がっている。ガケは赤土がむき出しで、わき水がちょろちょろ流れ、周辺の土はしめってジメジメ。
そのジメジメに生えている草の中に足をふみ入れたら、小さなカエルがぴょんぴょん飛んだ。アカガエルの未成熟なヤツだろう。なるほどヘビがいて変ではない。
「ほらこれ!こいつ!」
男の子がガケの真ん中を指差す。赤黒模様で相当に長い。雄一の身長より確実に長い。
じっと動かない。センター長がのぞきこむ。
「これはさっきの……」
「いえ、ヤマカガシです」
雄一は言った。
赤黒がほぼシマシマのパターンをえがく。ニジマスの腹部の模様に似ている、と書いた方が、分かる人には分かるのではないか。
(レッドデータブックなごや2015 動物編 より。デジカメ時代になってから見てないわ)
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