【理絵子の夜話】見つからないまま -02-
放課後。
理絵子はいつもの通学路を外れ、となりの学区へ通ずる坂道を下る。雑木林を切り開いてできた道で、両脇の見上げる斜面には、一面芝生が植わっている。
桜井優子が指定した“ロッキー”という名の喫茶店は、この坂道の途中にある。白塗りのログハウス風の小さな店で、おいしいコーヒーで知られており、客の数は多くはないが、逆にとぎれることもない。ちなみに、理絵子たちの学校は生徒だけでの入店を禁止しており、時折PTAによる巡回があることもあって、中学生が入ることはほとんどない。
ドアを開く。ドアベルがカランコロン。
「いらっしゃ………あ、りえちゃん、優子待ってるよ」
ひげのマスターが陽気に言った。
二人はここでは常連である。桜井優子が元よりマスターと知り合いであり、理絵子は理絵子でモニター……味見係だからだ。これは、マスターの過去と理絵子の父親の仕事……警察……の関係による。なお、入店禁止はそうしたマスターの過去に伴うが、二人はマスターと直接の関係があるため、PTAの巡回も二人に文句を言えない。
「コーヒーでいいかな?」
「うん。あ~、ケーキなんかある?」
「今日はシフォン」
「食べる。優子は?」
「……別にいいよ」
桜井優子は窓際隅っこのテーブルにあり、窓の外を見たまま、どうでもいいという感じで言った。お冷やの氷が溶けて動いて小さな音。
「待たせちゃったね」
桜井優子の向かい側に座る。店内には他に女子大生の二人組。
桜井優子は何も言わない。二人組が出るのを待っているのだと理絵子は知る。
カウンターでコーヒーサイフォンがぼこぼこと音を立てる。
「お待たせ~」
程なく、マスターがそのコーヒーとケーキを持ってきた。
「深刻な話?」
マスターが桜井優子を見て言った。
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