【理絵子の夜話】見つからないまま -03-
「うん」
理絵子が答える。
「そうか」
マスターは女子大生たちをチラと見た。
携帯電話の着信音。女子大生の一人が身じろぎ。
「あ、来たよ」
呼応して別の一人が言い、次いで両名立ち上がる。と、外の道に車が一台現れ、ハザードランプを点灯し路上駐車。
女子大生たちは車に向けて手を振ると、会計を済ませ、出て行った。
「またどうぞ~」
車が発進したのを見、マスターがドアの札を“close”に変え、ドアガラスに掛かったカーテンを閉める。
「ちょっとケーキの生地作ってくるよ」
マスターは言い残すと、店の裏に姿を消した。
気を遣って、いなくなってくれたのである。
桜井優子が、ゆっくり、理絵子の方へ目を向けた。
「私でなければ、って話なんだね」
桜井優子が頷いた。
理絵子はコーヒーをちょっと飲んだ。
それは、つまり。
「千葉にさ」
桜井優子はいきなり言い、一旦ちぎった。
「父親の両親……つまりじいちゃんとばあちゃんがいるんだけど、最近ばあちゃんがおかしくなっちまって」
「え?」
「いきなり怒ったりいきなり泣き出したり、ばあちゃん自身もどうにもできないらしい。病院にも行ったけど、年齢上ホルモンバランスのせいで感情が揺れることもある。特に異常はないと。それで、じいちゃんが、どうも近くの拝み屋に相談に行ったらしいんだ」
霊感商法トラブルである。理絵子はまず理解した。
「お金ばかり要求してくると」
「うん。しかも……じいちゃんがウチの父親の病気のことまで言ったらしいんだな。それで今、来てるんだよウチへ、その拝み屋が」
「家系全体が何かの霊に取り憑かれてる。強い悪霊を追い出すには大金を出せ」
「その通り」
理絵子は桜井優子の依頼内容を大体把握した。
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