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【大人向けの童話】謎行きバス-34-

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 昼になった。
 昼食は、他の子ども達といっしょに、食堂で取った。
 カレーライス。
「みんな、どうだい、先生の昆虫授業は」
 センター長がたずねた。
「虫ってすげぇ」
 1つ学年が下だったか、男の子。
「ゲンゴロウが翅の下に空気をためてとか、マジ感動した」
「そうかそうか。特にどこがすごかった?」
 センター長の問いに、男の子は、雄一が話したことをほぼそのまま話した。
 聞いただけでまるまる覚えてしまったのだ。興味を持ったことに対し、子どもが発揮する知識吸収力はこんな感じである。なのに大人は、自分が大人になるまでの間に、いつの間にかこのことを忘れるらしく、〝子どもは何も知らない〟と考えている方が多いようだ。
 だから子どもだましのいろんなものが店で売られている。子どもは、子どもだましの商品は、レベルが低いとちゃんと分かっている。
『だからお前にはこれを買うことにした』
 雄一はお父さんからそう言って、原色日本昆虫図鑑をもらった。
 男の子の話が終わった。センター長は、ニコニコ顔で大きくうなずいた。
「なるほどなるほど。それで長いこともぐっていられるわけだ。教科書に書いてないぞそんなこと。他には?」
「はい」
 手を上げたのは、モンシロチョウに死なれた女の子である。
 そういえばさっき、この子は納得したのだろうか。…雄一は思った。何せヤマカガシが出てウヤムヤになってしまったからだ。
「お、さきちゃん」
 少しおどろいた風に、センター長が女の子を指さす。
「お母さんて、大変だなぁって」
 その女の子、さきちゃんがその後言ったことは、雄一にとって、ものすごいショックだった。
 
児童虐待(じどうぎゃくたい)
 
 その言葉は、新聞やテレビで知ってはいた。ただもちろん、当の本人から話を聞いたことなど、無い。
 

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