【大人向けの童話】謎行きバス-35-
さきちゃんは、自分がめちゃくちゃにひっぱたかれ、投げ飛ばされ、その挙げ句、母親から引きはなされてここに来た、と言った。雄一はそういう大人達が実在することに、まずきょうふを覚えた。そして同時に、彼らのそうした行動は、面白がって虫の脚や翅をむしっていた、幼いころの自分に近いのかも、とも思った。
でも、雄一がショックを受けたのは、その部分ではない。
さきちゃんが続ける。だから自分は、〝優しいママ〟になりたくて、モンシロチョウのママになったと。
なのに、当のアオムシには、死なれてしまった。
ショックだったのは、この後のセリフである。
「悲しいし、くやしかった。それで思ったの。お母さん、ひょっとして、私がお母さんの思い通りにしてあげなかったから、たたいたりしたのかなって」
なんで!
雄一はさけびたくなった。悪いのは君じゃないでしょう。
『悪口言わないし、小さな虫を大切にするし、優しい子だね』…その堀長恵のお母さんは、自分に対して、良くそう言う、と聞く。
でも、実際には、虫差別をして、ふみ殺している自分がいるので、なんだか自分がウソつきみたいな気がしていた。
対して、この女の子はどうだろう。そこまでして、そこまでして…。多分、この期(ご)に及んで、という言葉を使っていいのだろう、なんでそれでも自分の母親をかばうの?
ここまで優しい子がいるの?
この声は、この子のお母さんに届かないの?
「きっと、アオムシ君は、天国でうれしいと思っているよ。さきちゃんみたいな、優しい子に、育ててもらえて」
センター長が、雄一にもそれと分かる、どうにかしぼり出したような、声で、言った。
だれも、何も言わない。ヘタなはげましの声もない。他にも少なからず、〝自分も同じ〟な、子どもがいると見られる。
尚子さんと佐伯運転士は、目を真っ赤にしている。
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