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【大人向けの童話】謎行きバス-36-

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「……そしてね、多分、こうも思ってるよ。さきちゃんなら、必ず、優しいお母さんになれるって。だから、ぼくの代わりに別のアオムシを育ててねって。今度こそ、ちゃんと生き延びるからって。そうだろ、雄一先生」
「え?……」
 いきなり水を向けられて、雄一は何を言ったらいいか、いっしゅん考えた。
 でも、虫が生き延びようとする話なら。
「あ、はい。モンシロチョウの幼虫は敵が多いし、ひょっとしたら少し弱いというのもあるのかも知れない。育たずに死んでしまうのがとても多い。だから、たくさん卵を産む。さっき話したよね。それは、ガクジュツテキには、生き延びる数を増やすのに一番いいのは何か、何億年もかけて進化した結果。
 でもそれって、別の見方をすれば、チョウのお母さんからのメッセージだと思うんだ。少しでも生きてねって。だって、チョウのお母さん、自分の産んだ卵が幼虫になって、育って行くところ、見られないんだもの。メッセージしか残せない。
 だったら、さきちゃんが、優しく育ててあげることは、少しでも生きてねっていう、チョウのお母さんからのメッセージに答えることになると思うんだ。アオムシだって敵をこわがらなくていいし、葉っぱもいつもちゃんとある。とても安心できると思うよ。
 ある程度死んじゃうのは仕方がない。それはチョウのお母さんも分かってるから、悲しいとか、くやしいとか、思ったりしなくていいよ。逆に、そういうものなんだ、と受け止めてあげて欲しいくらい。そう、大事なのは、ありのままを受け入れることと、優しく育ててあげること。それだけ。また育ててあげられる?」
「うん」
 さきちゃんはうなずいた。
 センター長と、そのとなりの尚子さんが、ためいきを付くように、かたを大きく動かしているのが分かる。それは多分、さきちゃんがたった今まで、受けたショックから立ち直っていなかった、ということだろう。
 

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