【理絵子の夜話】見つからないまま -05-
飛び石を歩き、玄関に近づいたあたりで、真言(しんごん=呪文)を唱える声が聞こえてくる。
言ってるだけに過ぎないことは容易に知れた。
桜井優子が玄関の引き戸を開ける。
「うるせぇぞインチキ拝み屋!」
理絵子が思わずびくっとなるほど迫力のある声。
唱える声が止まった。
「貴様だ!貴様がこの家の諸悪の根源だ!」
唾吐きながら怒鳴り散らす様が容易に想像出る。下品で、高圧的で、外見だけ。声が大きいのも雰囲気作りの演出に過ぎない。
イメージ通りの白装束の男が、廊下の奥からドカドカ歩いてきた。
お地蔵さんをカリカチュアライズしたような、ずんぐりむっくりの体型。
近くの高尾山(たかおさん)にも修験者がいるが、深山跋渉など、肉体を酷使するため、皆さん脂肪が無きに等しい。
に、比べて、この男のたっぷりした体型はどうだ。
首などまるでハムである。そして、そのハムには鈴なりのカボチャのような巨大な数珠をかけ、手には法具でやはり大型の独鈷杵(とっこしょ)。独鈷杵にもいろいろサイズはあるようだが、男のそれはこれ見よがしという言葉が相応しい小型バーベルサイズ。
(作者註:独鈷杵参考画像 https://www.narahaku.go.jp/collection/657-0.html 奈良国立博物館)
「優子、先生に失礼でしょ」
おろおろした口調で和服の女性が歩いてくる。桜井優子の母親である。
「何言ってんだよ。勝手に人の家を悪霊憑きにする方がよほど失礼じゃねぇか。能書き垂れる前にその悪霊出してみろよ。結果に見合う対価払ってやるから」
「なにっ!」
拝み屋は飛び出してくるかと思うほど大目玉をむいて怒鳴った。
と同時に理絵子は気付く。この男が次の瞬間何するか。
男の投げ付けた独鈷杵は、優子の顔に当たる前に、理絵子の学生カバンで遮られた。
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