【理絵子の夜話】見つからないまま -06-
理絵子は男の攻撃の矛先が自分に向けられたことを知った。
密教でいわゆる超能力に相当する力を法力という。この男は自分が“偉大な法力能力者”であることを信用させるため、こけおどしレベルではあるが、実際法力を備えているようである。
「お前……」
「験比べ(げんくらべ)、しますか?」
「なにっ?」
理絵子は男の思い描いた言葉を読み取って啖呵を切った。“験比べ”、すなわち法力の力比べ。
普段、理絵子は能力で他人の意思を読み取る…恣意的にテレパシーを使うようなまねはしない。しかし、こういう攻撃者が相手であれば話は別だろう。回避可能な危険をみすみす見過ごすこともない。
理絵子は優子の手を握った。
この男が自分の能力に気付いていること。男は自分を敵対者と感じていること。そして、その法力で、自分を組み伏せてやろうと考えていること。を、優子に意志で伝える。
優子はハッとしたような顔で理絵子を見た。テレパシーであると気付いたのである。
「大丈夫」
理絵子は言った。実際、この男の能力はこけおどしと評したように大したものではない。多少の念力現象を発生させることはできるようだが、スプーンが曲がるほどですらない。ちなみに、優子はテレパシー使いではないが、理絵子の方から押し込むことは出来る。
「おのれ……」
男は大数珠をガラリと首から外した。
「オン マユラキ ランディ ソワカ……」
数珠を両手に持って横一文字に伸ばし、真言を唱え始める。程なく、目に見えぬロープのようなものが自分の周囲に生じ、じわじわと締め付けるように圧力をかけてくる。それは“雰囲気が圧迫感を備えた”、或いは“自分の周囲だけ気圧が高くなった”などと言えば適切であろうか。ちなみに、この手の意志でコントロールされた雰囲気が、いわゆる“気”である。雰囲“気”だ。
でも、それだけ。
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