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【理絵子の夜話】見つからないまま -07-

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 ここで圧力に恐怖を覚えたらつけ込まれる、と判る。恐怖とは縮む・引きこもる方向の心の動きだが、この圧力は、その引きこもる動きに乗じて、心の奥まで入り込む。
 プレッシャーは真に受けると押しつぶされる。それと同じ。
 受け流す。方法は簡単。全然関係ないことを考える。さっきのケーキおいしかった。
 男に焦りと不協和音が生じ始めたことに理絵子は気付く。この小娘には法力が効かない。
 更にそのまま少し続ける。男の額に汗が浮かぶ。法力が何らの効果も発揮せず、ただただ空虚に失われていると感じている。空回りだと意識でつぶやく。力は娘を通り抜け、タバコの煙の輪のようにすうっと消えて行く。
 自分よりこの娘の方が能力があるのではないか。
 やがてその法力で自分をどうにかするのではないか。
 過去の悪行三昧を心の中から読み出され、警察沙汰になるのではないか……。
 男の想像が拡大し、やがて“恐怖”に変わるその瞬間を、理絵子は見逃さなかった。
 とはいえ理絵子に法力……念力はない。その恐怖に乗じて攻撃する能力はない。
 しかし、そんなことをする必要はないと理絵子には判っている。
 理絵子は男の目を見、挑戦的に見えるように、口の端で笑った。
 母親が持っている“エコエコアザラク”という心霊系マンガのヒロインのまねである。
 でも、それで充分だった。
 男は理絵子の攻撃が始まると信じ込み、恐怖と逃走の虜となった。
 空気を抜かれた風船のように、ものすごい勢いで心が萎縮する。先ほどの高圧さはどこへやら。想像が先走り、恐怖が恐怖を呼び、エネルギーの流れが一挙に反転して男へ逆戻りし、消滅してしまう。泉の水が枯れるようにエネルギーの供給が絶たれ、更には今現在男の身体に存在するエネルギー……活力さえも吸い出されてしまう。体温が低下し、身体が震え出し、数珠がカタカタ音を立て、歯がガチガチ鳴る。恐怖がもたらす寒さと震えそのものである。
 

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