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【理絵子の夜話】見つからないまま -08-

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「許してくださいもうしません」
 男は言い、いきなり土下座した。
「幾らでも金を出すだろうと思って、しゃぶり尽くすだけしゃぶってやろうと思って、嘘八百並べ立てました」
 べらべら喋る。
 理由は簡単、隠しても見透かされると思っているからだ。
「人を治す法力など自分にはありません。これを限りに足を洗います。ですのでああどうかお目こぼしを……」
 仏罰だ、という概念を男が抱いているのが判る。自分に菩薩の姿さえ重ね合わせているのが判る。自分を通じて、或いは自分そのものが菩薩であり、男を罰しに来たと思っているのだ。
 格違いのアナロジーはさておき、もし罰するのだとしたら、過去に対してはおとがめなしで水に流すというのはいかがなものだろうか。
 おこがましい立場で考えているのではない。この男にひどい目にあった人がいて、これからはしないからという理由で過去を許すものだろうか。
 父親経由で詐欺事件として調査してもらうのは困難ではない。
「真実は隠し通すことはできません。やがて自ら語り出します」
 考えたあげく理絵子は言った。ちなみにこれは父親の信念、座右の銘に相当する言葉である。『完全犯罪など存在しない。因果応報じゃないが、必ずどこかから破綻し、全容を現す』……そう言って困難に立ち向かう父親が理絵子は好きである。
「はい、はい、仰せの通りです……」
 理絵子の言葉に、男は床に額を擦りつけて頷いた。しかし、その頭の中は、反省しているというより“もう勘弁してください”の一点張り。この先何が起こるのかとドキドキしている。
「もう一度やり直します。これまでの罪を悔い、一件一件おわびの行脚に出ます」
 過去の目こぼしはしてもらえない、男は思ったようである。
 

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