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【大人向けの童話】謎行きバス-37-

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「すごいな、君は」
 センター長は、ぼそっと言った。
「そんなことないです。ただ思ってることを言っただけ。生き物の基本は、生きること、残ることです。モンシロチョウはたくさん生むことで残ろうとする。ゲンゴロウは水の中で生きるために背中に空気がためられるようになった。アリジゴクは飲まず食わずでも1ヶ月くらい平気。ハンミョウは自分がこうげきを受けそうなきょりに、敵を絶対近づけません。自分で飛んでにげてしまう。
 みんな方法はちがう。でも、目的は全部いっしょ、生きるためです。どいつもこいつもムチャクチャ一生けんめい生きようとしてるんです。
 だから、宿題で無理矢理虫を取って来させたり、気に入らないって殺したり、クスリの入ったエサでバカでかいクワガタ育てたりするのは、ぼくは好きじゃない。さきちゃんみたいな優しい子に、大切に育てて欲しい」
 雄一は、まるでだれかに乗り移られたように、一気にしゃべった。
 言葉は確かに自分の口から出たのに、人にひどい目にあわされた虫自身のセリフみたい、と、人ごとのように思った。
 ふと気付く。〝虐待〟って、ひどい目にあわされること。
「今日、君がここに来てくれたことを、ぼくは神様に感謝したい」
 センター長はそう言って、雄一をむぎゅっとだきしめた
 
10
 
 午前中の状況から、〝雑木林探検隊〟は、大人数になるかと思ったが、雄一の他は下級生ばかり5人、という小さな隊にとどまった。
 理由は簡単、小さすぎる子は危険だし、逆にある程度の学年の子ども達には、ボランティアの家庭教師が来るからだ。センター長は、「学校がせっかく土曜日休みになったけど、その時間はじゅくやなんかに行く必要が出てきた。子どもが本来なら遊べる時間に遊べなくなって、逆にゆとりが無くなった」と、こぼした。ちなみに、アオムシ再ちょうせんのさきちゃんは、行こうと思えば行けたのだが、産卵直後の卵を回収したいとかで、菜園のブロッコリーとニラメッコ、を選んだ。
 

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