【大人向けの童話】謎行きバス-38-
この結果、隊員は全て男の子ばかりである。出発に当たり、各自にお茶やスポーツドリンクのペットボトル、日よけのぼうしが渡され、虫よけスプレーをプシュッ。さらに、雄一にはバンソウコウと〝マキロン〟、非常連らく用のけいたい電話とチョコレートが持たされた。
「経験ありそうだから君に全部任せる。午後は先生から隊長だ」
文字通り、ちょっとした探検隊である。本日大かつやくのストッキング網、めずらしい虫を持ち帰るための水そうをたずさえ、出発する。
網を片手に雄一が先頭に立ち、段差の少ないところから雑木林に切りこむ。
このじょうきょうで注意するのは、クモの巣に引っかからないことと、そしてマムシに、
スズメバチ。
(2017/12。ベランダに来るなバカ者)
てんでに生えている下草を、網のサオでおしのけ、かれた枝や寄生植物のツルをかきわけ、これらをふみつけて道を造る。
クモの巣がある。
「完全垂直白帯円網(かんぜんすいちょくはくたいえんもう)」
図鑑にあった、正式な名を、雄一は思わず口にした。
まるで機械じかけで作られたような、美しい円形のクモの巣である。地面に対し垂直に立ち、左右のバランスが良くゆがみがない。縦に一本、白いクレヨンで適当にぬりつぶしたように糸の帯(おび)(かくれ帯)があり、持ち主がその真ん中にデンと座している。
持ち主。白黒黄色のトラ模様。手のひらに乗せれば、結構な大きさにおどろくだろう。
コガネグモ。
(愛知県常滑市にて。2018/7)
「へぇ~」
雄一は少しの間その巣をしげしげながめてしまった。都市でも山野と接する周辺部にはクモが多いが、この〝コガネグモ〟は、今日びそうそうお目にかかれるものではない。ちなみに、鹿児島(かごしま)でクモ同士を戦わせる風習があるが、そこで使われるのがこのコガネグモである。入れこんでいる人は、家の中がクモの巣だらけとか。
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