【大人向けの童話】謎行きバス-41-
相当すばしっこいはずである。案の定、しばらく追いかけ回したものの、彼らには無理で、動かせそうもない大きな岩の下に、カニは入りこんだ。
「ちぇ。みんなに見せようと思ったのに」
「ここに来ればいいじゃない。それに、カニは飼うのむずかしいよ。一晩で死んだりする」
「なんだつまんない」
「はぁーあ」
つかれたようなため息。
「探検隊、ひと休み」
持たされたペットボトルを口にしながら、雄一は次にどこへ行こうか、と周辺を見回す。もどるのは面白くないし、スズメバチの巣がある。流れの下の方は松の林で、カブトクワガタは絶対いない。上の方は大きな岩がごつごつしているので少々危険。
対し目の前は、自分の背より少し高い程度の急なしゃ面。草ぼうぼう。
ジャンプして向こう側をのぞくと、少し暗い目のクヌギの林。
絶対、いる。それは経験によるカンというヤツ。
目指す方向は、決まった。
11
考えてる間に、隊員たちはペットボトルを空にした。
「行こうよ隊長」
「よし分かった。じゃぁこっちだ」
しゃ面を登りにかかる。まずはよじ登ってみるが、ぼうぼうの草をクツでふむと、出てきた草のしるでクツがすべり、ズルズル落ちる。
「だめだこりゃ。ちょっと待って」
雄一は網の竿(さお)をつえがわりにして先に登ると、隊員達を網につかまらせて、引っ張り上げた。
「ふぁいと~」
「いっぱぁつ」
コマーシャルのまね。
「おもしれぇ」
一人が言った。死すらチラついた危険との出会い。そして、工夫と協力により難関を乗り越える。それは探検であり、同時に、
冒険(ぼうけん)、そのもの。
力を合わせ、しゃ面を上がると、ブゥンと羽音を立てて、アオカナブンが横切った。
「またスズメバチ?」
「いやちがう」
アオカナブンの行方を追う。グリーンの翅が、木もれ日にきらっと光る。
| 固定リンク
「小説」カテゴリの記事
- 【理絵子の夜話】城下 -09-(2023.11.25)
- 【理絵子の夜話】城下 -08-(2023.11.11)
- 【理絵子の夜話】城下 -07-(2023.10.28)
- 【理絵子の夜話】城下 -06-(2023.10.14)
- 【理絵子の夜話】城下 -05-(2023.09.30)
「小説・大人向けの童話」カテゴリの記事
- 【大人向けの童話】謎行きバス-63・終-(2019.01.30)
- 【大人向けの童話】謎行きバス-62-(2019.01.23)
- 【大人向けの童話】謎行きバス-61-(2019.01.16)
- 【大人向けの童話】謎行きバス-60-(2019.01.09)
- 【大人向けの童話】謎行きバス-59-(2019.01.02)
コメント