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【理絵子の夜話】見つからないまま -09-

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 数え切れないくらいやったと吐露する。国内のあちこちでその都度名前を変え、それこそ神仏にすがるより他ない人たちを骨までしゃぶった。
 病気、縁・結婚、子宝、天変地異の被災者。
 中には病院と結託して死期迫った患者を紹介してもらい、“治してやる”とだましたことさえもあった。
 理絵子は聞いていて気分が悪くなってきた。困っている人を欺して更に困らせる。それ以上卑怯な行為は多くあるまい。
どうして、どうしてここまで悪いことできる?
「う……」
 男が苦しそうなうめき声を上げたのはその時である。
 理絵子は気付いた。
 極度の恐怖……ドキドキが心臓に負担をかけ、そもそも肥満のため万全でなかった男の心臓が、限界点を越えたのだ。
「あの、救急車を。心臓発作です」
「え?あ、は、はい!」
 お母さんが慌てて奥へと走る。
 男は酸欠の金魚のように口をパクパクさせながら、数珠もろとも雪崩のように三和土へ倒れ落ち、仰向けにゴロリと転がった。
 満面に浮かび上がる冷や汗。血流が停止したためチアノーゼ状態に陥り、肌の色が青黒い。
「こいつ死ぬのか?」
 と桜井優子。殺虫剤をかけられたゴキブリでも見ているような風情。その気持ちは判る。しかし。
「判らない。ただ自分ちの玄関先で人が死ぬというのは後々非常にどうかと思う」
「そうだな」
 桜井優子が三和土にしゃがみ込む。心臓発作なら心臓マッサージすれば良いだろうと思う。
 経験はないが見よう見まねでやるしかあるまい。理絵子は記憶の中のおぼろげな保健体育の教科書をめくる。
 男が下敷きにした数珠が邪魔。
 桜井優子が引っ張り出す。
 その時。
 電気のショートのようなバチッという音がし、男が身体を一回びくっと震わせ、“筋肉が勝手に震えて声が出ました”的な声を発した。
 男の胸がフイゴのように大きく動き、息を吸い込む。
 

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