【理絵子の夜話】見つからないまま -10-
心臓が動き出したのだと理絵子は理解した。
「ああ、大丈夫だね」
理絵子が言った。桜井優子が残念そうな表情で、男を見、数珠を手にする。
男はそのまま仰向けで台風のように何度も呼吸。
桜井優子は数珠を観察している。何か気になることがあるようだ。
そして。
「なるほど」
桜井優子は大数珠をぐいっと引っ張った。
再びバチッという音。
確かに何かある。
「りえぼー」
桜井優子は言うと、数珠の一点を指差した。
なにやら指先サイズのメカ。数珠を引っ張ると、金属部分に青い小さな火花が飛ぶ。
「ガスレンジの点火部分だよ。こいつ、これで悪さしてたな」
桜井優子はメカを男の二の腕に押し当て、数珠を左右に引っ張った。
「ぎゃう!」
火花と共に男が声を上げ、身体を震わせる。
「おもしれぇ!」
理絵子は納得した。さっき男の身体の下から数珠を引っ張り出したとき、この火花がちょうど電気ショック(作者註:除細動装置)と同じ役目を果たしたのだ。
点火装置をじっと見る。何に使われたか、過去が判る。
護摩焚き……弘法大師クラスの法力使いになると、護摩木に念力で火を点けるという。そこで男は“強さ”の演出のため、念力着火と見せかけるべく、数珠にこれを仕込んだのだ。
ちなみに、超心理学では火を発する能力をパイロキネシスと呼ぶが、能力者は滅多にいるものではない。
「ありがとう……」
男は絞り出すようにそれだけ言った。
吹っ切れたように小さく笑う。幾ら執着しても死んでしまえばそれまでだ。そう悟ったようである。
「今日のことは、あなたを変えるかも知れませんね」
理絵子は言った。確信がある。この男はもうこの“稼業”には戻らない。
「はい」
男の目から涙がこぼれる。まるで母親か教師に諭されたように、14の娘相手にかしこまっている。
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