【理絵子の夜話】見つからないまま -11-
お母さんが戻ってきた。
と、共に、遠くから近づく救急車のサイレン。
「でもとりあえず病院で見てもらった方が良いかと思います」
理絵子は言った。男は、何度も頷き、ジャングルの謎の鳥のような声を上げて泣いた。
救急車が門前に止まった様子。桜井優子が門へと向かう。
「お嬢さん……」
男が言い、理絵子の目を見た。
「はい?」
「これを…これは、あなた様が持つべきだ」
男は独鈷杵を理絵子に差し出した。
3
「やっぱり、悪霊とかそういうものですか?」
お母さんが理絵子の顔をのぞき込む。
理絵子は今、桜井優子の父親が寝ている布団の傍らに座っている。全身の筋肉から力が抜け、動くことができないのだという。病院でも原因不明とか。
「いいえ」
としか理絵子は言えない。霊は無関係。ただ、お父さん自身や家族の気持ちが、相当の影響を及ぼしてはいる。
大人の男性なのに、自分より細くなってしまった腕や足。
痛々しい以外の何ものでもない。思わず腕を取り、ゆっくりとマッサージを始める。とはいえ、ただ、手のひらを宛がって、上下に動かすだけだが。
「宗派とかは、どちらです?」
お母さんが理絵子に問い、理絵子に倣って他方の腕をマッサージ。
「特にどこかの宗教団体に入っているというわけじゃありません。ただ、そういう力ですから、両親が心配してそこの高尾山(たかおさん)に私を連れて行って、修験者に引き合わせたんですね。で、力のなんたるかを理解しましたし、心構えとか、少しレクチャーを受けてはいます。でも、テレビや雑誌に出てくるようなことは、私にはできません」
「そうですか」
残念そうなお母さん。千葉の件を頼もうと思ったようである。
「あ、でも優子ちゃんのおばあさまの件でしたら、彼女から伺ってます」
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