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【理絵子の夜話】見つからないまま -13-

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 お母さんと優子が同時に円い目を作り、同時にお父さんを見る。
 催促するように再度チャイム。
 優子が玄関へ向かった。
「あの……黒野さん」
 ためらいがちにお母さんが理絵子を見た。
「あなたは……やっぱり大きなお力をお持ちなのではないですか?」
「ないですないです。ただ、お父様はお疲れになっていただけ。ゆっくり休まれれば治ります。英気を養うってところでしょうか」
 理絵子は手を左右にパタパタ振って言った。
 優子が戻ってくる。
「あい、お待たせの晩飯。りえぼー、お前今夜泊まってけ」
「そうそう、それがいいわ」
 
 
 恐らくすぐにでも千葉に行ければ良かったのであろうが、学校をおろそかにするわけにも行かず、出発は土曜日になった。
 旅行カバンを手に、青や黄色を使った派手派手しい塗装の特急電車から、温泉地の名前の付いた駅に降り立つ。
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「グリーン車って初めて乗ったけど、ちょっとイスが大きすぎて落ち着かない感じ」
 理絵子は優子に感想を述べた。桜井家が千葉への移動に用意したのはグリーン車。
「でも静かでいいだろ。東京まで1時間かったるいのに乗ったんだ。そこからまたかったるいのじゃイヤだろ?」
 優子があっさり言い、駅員に切符を渡して改札を抜ける。
 駅前にはタクシーが一台。優子はためらうことなく乗り込んだ。
「ここへ……」
 優子がメモを運転手に渡す。
「ああ、はいはい」
 白髪の運転手は何度か頷き、車をスタートさせた。
 ゆっくりした丁寧な運転。
 海沿いの国道へ出、梅雨明け間近の太陽へ向けて走る。
「お嬢さんは、桜井さんとこの……」
「孫、です」
 運転手の問いかけに、優子はぎこちない感じで答えた。
「そうですか。いや顔立ちがあそこの奥様に似てるなぁと思いまして……そうですか」
 走ること数分、国道が右へカーブし、海沿いから少し中へ入る。
 

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