【大人向けの童話】謎行きバス-44-
「ザトウムシ。見ての通りクモのしんせき。虫つかまえて食うところもいっしょ」
「へぇ。あ、なにこのクワガタ。コクワのメス?」
「ちょい待ち。よーく見てごらん。そいつはいわゆるゴキブリ。ヤマトゴキブリ」
「え?うわほんとだ。何でこんなところにいるの?」
「森林に住むのが本来の姿なんだ。何せ3億年前からゴソゴソしてるからね。そんな時代に人の家があったと思う?」
「3億年……」
「あ、それ聞いたことある。ゴキブリって全然変わってないって」
「実はゴキブリもすごい?」
隊員達は雄一の顔を見た。
雄一はへぇ、と思った。いくら虫好きでも、ゴキブリの仕組み・生態に興味を持つ子どもなどそういない。ましてやこの隊員達は〝カブト・クワガタは好きだけど……〟というタイプである。
そんな隊員達のこの質問。それはおそらく、ゲンゴロウやハンミョウのような〝生きるための工夫〟が、実はどんな昆虫にも備わっていることに気付き始めた。そして、それを面白いと思い始めた、ということであろう。
「大昔の昆虫はデカくて強かったんだ。こんなトンボの化石見たことあるでしょ」
雄一は両手を軽く広げた。
メガネウラ。翅(はね)を広げると70センチにもなる。
史上最大の昆虫。
「他にも巨大グモとかいろいろいた。そんなのからにげるには、それなりに進化する必要があったんだと思うよ。その結果、こいつらが選んだ道は、せまいスキ間に入りこめる平べったい体。とにかくそこまでにげこめる早いにげ足。そして、敵が食いきれないほど、たくさんの数はびこること。だから、野菜から肉から石けんまで何でも食うし、いつでもどこでも卵を産む。〝こがねむしは金持ちだ〟って歌詞知ってるでしょ。あのこがねむしはゴキブリのことで、建てた〝金ぐら〟ってのは、ケツにつけて持ち歩く卵のかたまりのことだ、と言われているんだ」
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