【理絵子の夜話】見つからないまま -14-
道の両側は畑。
「落花生だよ」
優子は言った。
「今年も良さそうですね」
と、運転手。ということは、桜井家の畑ということか。
やがてタクシーは右折し、畑の中の細い砂利道をそろそろ進む。
生け垣に囲まれた、大きな平屋の家。
木造の倉庫。庭先にはニワトリが数羽。
門柱の前でタクシーは止まった。
「どうも」
運転手が笑顔で言い、ドアが開く。
犬の吠え声。理絵子に続き、優子がお金を払わず降りてきた。
「えっ?」
「あとからこっちに請求来るから」
「はぁ……」
運転手がタクシーを一旦バックさせ、二人に会釈し、元来た道を戻って行く。どうやら桜井家は資産家というだけではなく、この地域にそれなりに名も通っているらしい。
玄関の引き戸がガラリと開いた
首にタオルを巻き、顔に深いしわを刻んだ白髪の男性。
疲れている……理絵子はまず感じた。
「じいちゃ~ん!」
優子が言い、手を振る。
「ああ、良く来たね。そちらが……」
「霊能者のりえぼー」
「違うって。黒野理絵子と申します。初めまして」
理絵子は立ち止まり、頭を下げて挨拶した。
犬が吠えるのをやめる。訪問者が身内であると気付いたのだろう。ちなみに柴犬である。
「やっと思い出したかこのバカ犬が~」
優子が犬の顔をつかみ、もみくちゃにする。
「ささ、中へ、中へ。妻は今眠っています。時々刻々状態が変わるので」
優子の祖父は困ったように言いながら、少女たちを屋内に招いた。
「お邪魔します」
中へ入る。
感覚が異変を告げる。夏前の昼下がり、純日本家屋である。採光は問題ないはずだが。
暗いのだ。闇の入り口に建っている、そんな印象を受ける。何か“吸い寄せる”ものがこの家にあり、マイナスの成分を持つものが集まり、光の進入を妨害している。
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