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【理絵子の夜話】見つからないまま -16-

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 布団に仰臥する白髪の女性。
 優子の祖母である。物干し中にいきなり倒れたとかで、洋服にかっぽう着姿のまま。
「どうです?」
 心配そうに祖父が尋ねる。この部屋に入り、理絵子が最初に感づいたのは、今この人の人格はここにいないということ。
 言ってみれば仰臥しているこの身体は、運転手のいない車状態。
 幽体離脱(アストラルプロジェクション)……オカルトな用語だとそうなるが、果たして。
「突然怒ったり突然泣いたりはあったんですが、今日になって突然倒れまして。医者に診せたら『過労だ』と。あなた様が来ると伺っていたので、とりあえず医者の言うとおり栄養剤点滴して寝かせておるのですが」
 拒否反応。そんな言葉が理絵子の意識に浮かんだ。自分を避けるために、自分に見つかりたくないが故に、祖母の人格を隠し、口を封じた。
 その理由。自分が攻撃するのでは、と思っているから。
 それはすなわち、別の何者かが存在し、祖母の身体を窓口に、何かアクションを起こそうとしている。
 しかも、仕返し、的なニュアンスを持った。
 とはいえ、この老夫婦が、仕返しされるような何かをしたという感じはない。仮に、そんなことをする人物であれば、一見しただけでそれと判る。
 ならば、夫婦の無意識の行動が、他の誰かには恨まれる行動だった?
「いつから、異変が始まったか、憶えてらっしゃいますか?」
 理絵子は尋ねた。敵ではない。原因を知りたいだけ……そんな気持ちで祖母の腕に触れながら。
「ゴールデンウィーク来たときは、別に変じゃ無かったと思う」
 優子が言った。
「その通りだ。6月になってからだよ。変な噂を聞いてな。それでこうなって、その……インチキ拝み屋?を呼ぶことになったんだ」
「噂?」
 ため息混じりの祖父に理絵子は問い返した。それだ、という直感。
 

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