【理絵子の夜話】見つからないまま -17-
「実はそこのマンションを所有しておるんだが」
祖父は海の方を指差した。
「県外の業者で叩き売られていたのを買い取ったのだよ。販売8割賃貸2割だったかな。先を考えると畑仕事もきつくなるから、安定した収入源をと思ってね。ところが一戸も借り手が無くて」
理絵子はその話を理解するのに少し時間を要した。
買ったのはマンション一室ではない。マンション丸ごとだ。8割の部屋が販売用で2割が賃貸用なのだ。
「管理費用ばかり取られてはたまらない。転売しようと駅前の不動産屋に行ったら、いやあそこは誰も買いません。申し訳ないが買い取ることはできませんと。理由を聞いても言わないので近所で聞いたら…その、幽霊マンションだと」
つながった。理絵子は思った。
「幽霊マンション?出る、ってこと?」
優子の問いに祖父が頷く。
もやもやするものを感じる。それは意識の動き。祖母を乗っ取ろうとしているこの者が、自分たちの話題に関心を示している。
「それでもうこれが怖がってなぁ。それからだよ、女が見てる。子どもが泣いてるとか言い出して、なんだか少しずつ壊れて行くみたいだったよ。幽霊って話があった後でそれですからね。慌てて人づての人づてで霊能者を探して……」
「あのインチキ拝み屋に引っかかったと」
優子の言葉に祖父は頷いた。
理絵子は祖母の顔をじっと見た。その拝み屋さんの心臓発作と同じである。祖母の“恐怖”が何かを引き込んだのだ。
「そのマンションって激しくクサイよなぁ」
優子が言った。
理絵子もそれは同じ。だがしかし。
「いきなり行っても、多分解決しない。それ以前に、おばあさまを放ってはおけないし」
祖母の、いや、祖母の向こうにいる存在を見ながら理絵子は言った。
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