【大人向けの童話】謎行きバス-49-
彼は、ニオイの元が鼻の下にあると気付いたのだろう。必死になって、手でゴシゴシぬぐった。
だがそれは、ニオイの元を顔じゅうにぬり広げる作業そのもの。
口がへの字になり、まゆ毛が八の字になり、顔色が青くなる。
手足を地面についてゲホゲホ。ケンカどころではない。
その時。
「ちょっと何してんの!」
女の人の声。
しかも聞き覚えのある声に目を向けると、こちらへ走ってくるセーラー服と三つ編み。
由美さんである。帰ってきたのだ。少し早いが。
「センターの子じゃない。あ、雄一君。あ、この子らいつもセンターの子をいじめる……どうしたの?あ」
由美さんが、地面にハイハイの大きいヤツに気付いたその時、そいつは、ゲーっとはいてしまった。
ゲロだ。
「気持ちわりぃ……」
かすれた声で言いながら、手下二人を見上げる。『助けてくれ』…そんなところか。
しかし。
「うげーゲロだ」
「きたねーきたねー」
なんと、手下の二人はそう言い、にげるようにずりずりと後ずさってしまった。
しかも、鼻をつまんで手をパタパタという動作。
それは文字通り〝手のひらを返すような〟。
すると。
「お前ら……なんだよぉ……」
何ということだろう、あれだけ暴力的に見えた大きなヤツから、なみだがポロポロこぼれ始め、ついには泣き出してしまったのだ。
しかも、小さい子みたいな、エーンエーン、という泣き方だ。それは、その大きな体で?とこっちがビックリするほど。実際、泣かせた当の本人達……手下ども……も、『まさか』という目だ。
なぜ彼は。雄一は味方する気はないが、気持ちは分かる気がした。あのニオイではどうしようもなかっただろう。でも、ゲロするなんて一番みっともない姿だ。それを、強がっていた相手に、自分より小さな子に、さらには女の人にまで見られた。
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