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【理絵子の夜話】見つからないまま -19-

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 理絵子は説明した。
 祖母がスイッチ入ったかの如くガバッと体を起こす。
「あら私ったらお客さんの前で失礼なことを」
 失神の時点で意識の時間が止まっていたのだろう。やっと現状認識ができたようである。慌てて居住まいを正し、布団の上で正座。
「えーっと、その……」
「黒野理絵子と申します。奥様がお倒れになったと伺ってお邪魔した次第です」
「ああ、優子の友達の霊能者の……」
「ええ、はい」
 理絵子は少しためらいながら答えた。やっぱりテレビ雑誌の霊能者と同列に見られるのにはどうにも抵抗がある。ただ、そういう概念が祖母の安心感を生むのであれば、わざわざ訂正する必要はない。
「そう、こいつはインチキじゃねーよ」
 優子が言う。自分に対し感じる依存、安心。優子の信頼。
 気づく。こういうネットワーク的につながっている心に、あーいう連中が入り込む余地はない。“絆の強さ”とはよく言ったものだと思う。
 ただ、だからといって、この家自体に存在する“吸い寄せる”感覚まで消えたわけではない。
 連中は居続けている。まだマンションに出向くには早い。
 自分がいなくなる時を狙っているのだ。
 
 
 夫婦の様子見をかねて、二人は午後をのんびりと過ごした。
 そのマンションは、6畳間の窓から見える風景の右方に建っている。12階建て。桜井家宅より海に沈む夕日を眺めるに際しては、目障りこの上ない物件である。従って逆にマンションからの眺めは最高であろう。敷地が海岸まで広がっているので、プライベートビーチを持っているという。“バブル経済”の産物。
 後ろで優子の声。
 「何お前、これ持ってきたの?」
 振り向くと優子が独鈷杵を持っている。拝み屋氏に託されたあの大型独鈷杵だ。
 「困ったときの何とやらってわけ。真言も多少は知ってるから、まぁ」
 

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