【理絵子の夜話】見つからないまま -20-
理絵子は言った。すると、何者かの、独鈷杵に注目するような意識の動きあり。
試しに独鈷杵を手に取り、視線を感じた部屋の隅の方へ向けてみる。
ミシッ、という、大木が強風に吹かれたときのような軋み音。
オカルトのマンガでラップ音と書かれる音である。
そして、音と共に、注目していた連中は遠ざかった。
これを、独鈷杵を恐れている。
「今の音それのせいか?」
優子が訊いた。
「ううん。ちょうど柱が軋んだだけ」
居間の方から声。ご飯だよ~。
「は~い」
優子が答え、理絵子は独鈷杵を片手に居間に向かう。これから祖母に不思議な経験の詳しい内容を聞くので、念のために持って行くのだ。
鉄アレイさながらにゴテっと卓上に置き、新鮮そのもののお刺身をいただく。終わってヒアリング開始。
「あのマンションにまつわるひどい話を聞いてからですね。変なものが見え始めたのは」
祖母はうつむき加減に言った。
「相当あくどいことして地上げしたらしいです。元々古い借家が数軒建っていたのですが……」
その借家は金儲けというより半分慈善事業的だったようである。金銭的に困難な人々に極めて安い値段で貸していたという。
しかし、ある日突然、大家がいなくなり、がらりと変わった。
祖父が補足する。
「又聞きなんでどこまで本当か判らないんですがね。借家は壊されマンションに変わった。でもいつまで経っても誰も入居せず、やがてバブル崩壊ほったらかし。勿体ないと思っていたら、売り出ししてるんで我々が」
「で、売れない理由は判りました。恨みを買ってるかも知れない。いやだな怖いなと思ったんですよ。でも建物の手入れは怠るわけに行きません。設備の動作を確認しに行きました。その時ですね。最初は」
祖母が言った。部屋に入り、電灯類の動作を確認していたところ、上の部屋を子どもが走り回るような足音がしたという。
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