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【大人向けの童話】謎行きバス-51-

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 優しい声。
 きれいだ。きれいなひとだ、と雄一は思った。
 女の人を、ステキだ、と思ったのは、これがはじめて。
 なんだか心臓がドキドキしてくる。ステキな女の人……。
「まだ鼻痛い?」
 ティッシュを取りかえる。
 その動作のいっしゅん。
 由美さんの、持ち上げたうで。
 わきの下の、むこうに見える、白いレース。
 雄一はぎくり、とした。それが、「ブラジャー」と呼ばれる、おっぱいをかくすというか、おおうための下着であることは、すぐに分かった。
 おっぱい。
 堀長の顔がうかんだ。いじめるやつを追いはらう姿も、あの幼なじみの彼女につながる。
 傷つけられてるかも知れない彼女。
 何か、彼女に関して、大きな宿題をもらっている気がする。
 由美さんはティッシュを一枚、お茶でぬらして、大きなヤツの鼻の根元にぺたっとのせた(冷やすためだが、雄一はそうとは分かっていない)。
「そろそろ血が止まると思うけど、おうちに帰ったら……」
 そこで、大きなヤツはとつぜん立ち上がり、自転車を置いたまま、何も言わず走り出した。
 にげるように。
「あっ……」
 由美さんが立ち上がり、しかしそのまま追うことはなく、大きなヤツを見送る。横向きになった由美さんの向こうに太陽。
 横から見ると、かたの所からおっぱいがもりあがり、白い夏服のセーラーが、すーっときれいな曲線を作っているのが分かる。
「まぁ、何も言いたくはないか。さ、これで大じょうぶと。……んで?」
 由美さんは雄一をふりかえり、雄一がどこを見ているか気づいたようで、真っ赤になった。
「きゃぁ。なに?なに?」
 両うでで、自分をガバッとだきしめるようにして胸をかくし、しゃがみこむ。
「あ、ごめんなさい……」
 雄一はまず言った。
「その……きれいだな、って」
 そして、今度は雄一が真っ赤になって、うつむいて、言った。
 

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