【大人向けの童話】謎行きバス-53-
「なるほどね。私がその場にいたらビンタだね」
雄一は目をむいた。
さっきの、こわかった由美さんを思い出す。
「だって、女の子っていつかお母さんになるわけでしょ。当然どこかでおっぱいふくらんでくるわけじゃない。当たり前のことだし、本人にはどうしようも出来ないこと。それをまるで欠点みたいに言われたら傷ついて当たり前だよ。その子、恵、ちゃんだっけ?じっとがまんしてるんだと思うよ。家で一人で泣いてるかも知れない」
「やっぱり、すごくひどいこと……」
「そりゃそうよ。君だってそのうち、おちんちん毛が生えてくる。知ってるでしょ。大人のおちんちんテレビに出しちゃいけないの。あーゆーのになるんだよ。でもそれを、放送禁止!きたねー!とか言われたら、どう?」
雄一はさっきの大きなヤツを思い出した。
「さっきのあいつ……マルカメムシ手でつぶしたんだ。それで多分気持ち悪くなったんだと思う。で、ゲーってなったのに、きたないって言われた」
「それと同じよ。だから私、あの子の腰巾着(こしぎんちゃく)がきたねーって言ったのおこった。しせつの子がね。言われるんだ。似たようなことを、良くね。
だってこの子達、私もそうだけどさ、のぞんでここに来たわけじゃない。他に行くところ無くて、ここに来たんだから。ここしかなかったんだから。それをさ……」
由美さんはいきなり涙声になり、雄一に、がばっと、だきついた。
だきしめられた、と言うべきか。雄一は首筋に熱いしずくがじゅっと落ちるのを感じた。
〝家で一人で泣いてるかも知れない〟……じっとがまんしているのは、他でもない由美さんもそうなのかも。
やわらかくて、温かくて、こきざみにふるえている……。
「由美さ……」
由美さんは体をはなし、起こした。
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