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【理絵子の夜話】見つからないまま -22-

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 理絵子は頷いた。そして、子どもたちの目撃を繰り返すにつれ、祖母の恐怖は増幅され、夜も電気をつけっぱなしにするようになり、やがて体調の変化が始まっていったのだと判った。
 ただ、体調の変化が始まってからは、逆に子どもたちの目撃回数は減少していったようである。
「よく判りました。怖いことを思い出させてしまって申し訳ありませんでした」
 理絵子は言った。
「いいえ。それで……何か判りました?」
「はい」
 理絵子は解説した。まず根本的に子どもたちはいわゆる幽霊さんである。そして、マンション建設のゴタゴタに何か関係がある。
 次に、子どもたちは恐らく何か伝えたいことがあり、祖母に接触を開始した。祖母は当然恐怖を憶えるものの、その恐怖が、人間が原始持っていた“危険を察知する本能”のスイッチをオンにした。その結果、精神で感じる能力が鋭敏化し、見えるようになった。
「でも、そのあとの体調の変化は子どもたちのせいではないと思います」
 理絵子は言った。
 折角認識してもらえるようになったのに、怖がらせては意味がない。
「と、いうと?」
「失礼な物言いですが、“怖がっている人がいる”と知って、その、昼も申しました憑きものたちが集まって来たんです。むしろ、そのせいで子どもたちはおばあさまに近づけなくなった、というのが実際のところではないかと思います」
「ハイエナかゴキブリかってところか」
 優子が言った。
 その感想は、そう言われた彼らにはしゃくに障ったようである。いらだちを含んだ怒りの感情が芽生え、自分たちに対し攻撃の意志を向ける。
 庭で犬がわんわん吠える。その者たちの姿が見えたのだろう。犬には霊が見えるという。
「あなたコロが……」
 コロ……犬が吠えた原因を、祖母は異変と感じ取ったようである。心に恐怖が、心霊現象と結びついた恐怖が、冬の結露のようにさっと広がる。
 

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