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【理絵子の夜話】見つからないまま -25-

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「対決なんかする気ないよ。何も解決しないでしょ。敵だとも思ってないし」
 そもそもはかわいそうな存在なのだ。それを行動が攻撃的だからと言って排除するのはおかしい。
 むしろ必要なのは“慰謝・許容”ではないのか。
 刃向かう気持ちを弱めてみる。
 と、その時。
「出てくる」
「え?」
 理絵子は感じたままを言った。マジックミラーの向こうから、こちらへ出てくる。
 天井付近に陽炎のようなもやもや。
「あっ……」
 優子が気付く。彼女にも見えている。
 すなわち強い相手だ……理絵子は認識した。
 狐だヘビだ、というレベルではない。明確に幽霊、否、怨霊である。死して尚存在し続ける、意識だけの怨嗟の人。
 蛍光灯の光が失われる。
 但し暗闇に閉ざされたわけではない。わずかに、本当にわずかにではあるが、光が残る。天井の梁がうすぼんやり認識できる。
 わざとだ。理絵子は知った。怖がらせるための演出。
 梁が、それこそ陽炎越しにあるかのように、揺らめき、動く。
 続いて、陽炎のようなもやもやが、何か形を作り始めた。
 人の頭部であると判る。泥土で作られたかのような、グレーとも茶色とも付かぬ色をした、人の頭部。
 頭部がろくろ首よろしく、天井からぬーっと首を伸ばし、二人の方へ降りてきた。
 優子が絶句する。本物の幽霊である。驚愕が彼女の心を捉えている。
 しかし、これは最早鉄則だが、その驚愕が恐怖に転じてはならない。
 理絵子はタオルケットの下から優子の手を握った。
 ろくろ首が接近する。
 鼻先に触れるか位まで近づき、静止する。
 触れているかも知れぬ、しかし相手には実体はない。
 祖母がガバッと上半身を起こしたのはその時。
「許してやるなどおこがましい。地上げ屋の手先が」
 油の切れた機械装置のような、ギシギシした、“錆びた”声。
 

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