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【理絵子の夜話】見つからないまま -26-

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 それは最前までの祖母の姿ではなかった。眉間に縦皺を寄せ、目は怒りに燃え吊り上がり、噛み締められた歯は今にもギリギリと音を立てそう。
 声に祖父が目を覚ます。祖母の姿に目を円くする。
 祖母の異様さが祖父の心理に恐怖を呼び込む。
 インクのシミのようにさっと心理に広がって行く恐怖の観念。
「連中がおばあさまを借りて喋っているだけです」
 理絵子はすぐ言った。
 しかし祖父の恐怖をぬぐい去ることはできない。
 仕方ない。
 独鈷杵を手にする。それこそ挑発するようにろくろ首へと向ける。
「それでお前に何ができる。真言を知っておっても聞く者がおるまい」
 勝ち誇ったように言い、そんな風になるのかと思うほど、唇をVの字につり上げて嘲笑する。
「鬼……」
 祖父がつぶやき、後ずさりした。
 鬼、確かに今目の前にいる“老女”は鬼そのもののようである。古来語り継がれる怨恨と破壊の権化、般若の形相をしている。
 しかし理絵子はあくまで攻撃をしようというのではない。
 ろくろ首と化してしまった、鬼女となってしまったこの人の過去を探る。超心理学の用語でポストコグニション(過去認知)。
「やめろ何をする」
 ろくろ首は拒否の反応を示した。
 襲われる。浮かぶ般若の顔が突如巨大化し、部屋の半分をも占めるサイズとなり、狂気のガリバーのように、文字通り理絵子に食ってかかる。
 巨大な顎が理絵子を捉える。パジャマの少女が口の中にすっぽりと隠される。
 傍目には、理絵子は巨大な顎により、飲み込まれたように思われた。
 しかし、理絵子には身体的な変化は何一つない。霊的存在と肉体は所属する次元が異なるからである。
 彼らは心に働きかけることはできても、肉体に直接力を及ぼすことは容易ではない。
 自分に対する優子たちの心配を強く感じながら、理絵子は自分を囲繞する環境のなんたるかを、心で捉えた。
 

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