【大人向けの童話】謎行きバス-55-
由美さんはまるで、自分の事みたいに、なみだをうかべて言った。
「由美さんも……」
「私?私は出ても行くところないもん。両親とも死んだから。でも死にたいと思ったことあったよ。だって最初、ただ生きてるだけ、みたいな気がしたもん。ここと学校を往復するだけの毎日。何の意味があるんだろうってね。それである日、夜の2時だったかな、雪降ってた。凍死(とうし)ってねむくなるって言うから、この寒さなら死ねるかなって。だって、痛いのとか、体ぐちゃぐちゃになっちゃうのって、いやじゃん。そしたら、センター長の部屋から泣き声聞こえてさ。だれか迷子にでもなったのかなって、ふすま開けたの。
そしたら丁度、センター長がまた悲しい話を警察から聞いた後だったの。その時、今君に話してることを全部、センター長から聞いた。
ボロボロなみだ流してさ、痛いくらいだきしめられて、言われた。死ぬなって。一人一人を覚えてる。その子がいなくなるのはとてもつらいって。私が死ぬことなんか考えたくもないって。
で、ハッと分かった。自分のために泣いてくれる人がいるって。そのしゅんかんから、死ぬことなんか考えなくなった。でも私がそう言ったらセンター長はこう言うの。『人を好きになったことのある子どもなら、必要とされる、愛されることのうれしさは分かってもらえる。でも、そうじゃない子に、死ぬ、なんて考えさせないようにするには、どうすればいい?って。生きよう、と思わせるにはどうすればいい?』って。
今日、センター長がわざわざ私に君のこと電話してきたのは、そのヒントが見つかったからだと思う。ありがとう。私もみんなに胸張って言えるよ。この虫をご覧、一生けんめい生きてるでしょって。そんな虫を君たち好きでしょって。同じように生きてる君たちを好きな人がいるんだよって。例えばね。
でもその前に、虫に慣れなきゃダメかな。そうだ、今度は私に虫のさわりかた教えてよ。一生けんめい生きてるよ、と言ったそばから、キャー虫イヤーじゃ説得力ないもんね。
だから君も、その女の子が傷ついてると思うなら言ってやって。お前らやめろって、この女はオレの仲間だガタガタぬかすな、って。ひゅーひゅーって言われてもいいじゃない。女にきらわれる男なんて1円の価値もないんだから。そうでしょ?どんなにハンサムで金持ちでも、女に好かれなかったら、生き物のオスとして生まれてきた意味ないじゃない。コイビトになれと言うんじゃない。味方になるの。すごいかっこいいと思うし、女の子も安心できるよ、きっと。
そして女の子がもし、君になやみを打ち明けたら、傷ついてると相談してきたら、こう言ってあげて。
ぼくはそんな風に思ってない。君はすてきだよ、って。
私に、言ってくれたように、さ」
由美さんは、ちょっと照れたように、ウィンクした。
ところで、由美さんがうまい具合に通りかかった理由だが、なんのことはない、センター前の、雄一がバスを降りたあの道を、そのまままっすぐおくへ向かうと、雑木林を急坂で降りて、ここへ出るのだそうだ。
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