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【大人向けの童話】謎行きバス-58-

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 月曜日。
 雄一は早速、ミヤマクワガタの水そうをかかえて、学校へ向かった。
 掘長恵といっしょになる。家が近くて、登校時間もいっしょだから、大体いつもこうなる。
「聞いたよ。謎バス乗ってきたんだって?」
 掘長は笑顔を作って言い、雄一の背中をポンとたたいた。
 雄一は目の上の少女を見上げ、すぐ気付いた。
 堀長の様子がいつもとちがう。
 笑顔だが、目がしんどそう。
 覚えていないころから毎日会っているのだ。そのくらいすぐわかる。
「調子悪いの?」
「え?まぁ、うん。だるいというか、ちょっとぼーっとしてるというか、熱はないんだけどね」
「大じょうぶ?」
 それは単純に堀長が心配だからでもあるし、由美さんの〝味方に〟というのが意識のかたすみにあるからでもある。
 果たして堀長は、あれっ?という目で雄一を見返した。
「ゆう君……」
 雄一は、自分の言ったことが、とっても〝らぶらぶ〟なじょうきょうを作り出したと感じた。
 顔がかぁっと赤くなる。
「だ、大じょうぶなら、……行こうよ」
 思わずどなろうとしたが、彼女をつき放してしまうような気がして、〝行こうよ〟は、ふつうに言った。
 彼女に冷たい行動が取れなくなった自分を感じている。由美さんに言われたことが、とても強く印象に残っているのだろう。
 道すがら、バスの行き先の事を話す。
「……そういうしせつなんだ」
「子ども達は虫好きなんだけど、虫にくわしい大人がいないからって。面白かったよ。センター長さんの部屋は中に木が生えてて、樹液が落ちるからって、カサさしてご飯食べた」
「へー」
 堀長は笑顔を作った。面白いのは面白いと思ってくれてるようだ。でも、それ以上に体の調子の方が悪いのか、声は何だか素っ気ない。
「で?それがおみやげ?」
 堀長は話題を変えるように、水そうを指差した。
 

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