【理絵子の夜話】見つからないまま -27-
“ここ”はろくろ首なる女性の内的世界。すなわち心の中。
理絵子は“目”を開く。心の世界を眺めるための超感覚の目を開く。
止まった時空であるとまず判る。
概観する。古い人、江戸時代の女の人である。夫婦となったが、夫は他に女を作り、邪魔になった彼女を殺して、近くの古井戸から捨てた。
誰も彼女の死を知らない。遺体も放置。
裏切られた悲しさ。悔しさと憎悪。
自分は何も悪くない……そりゃそうだ。理絵子は同情を禁じ得ない。
「やめてくれ」
ろくろ首が弱気な声を出した。
理絵子はまぶたを開ける。そこには萎縮し、元の大きさに戻ったろくろ首の姿。
認識が二つ。一つは祖父の考え。自分がこのろくろ首から念力で脱出し、退治にかかっている。そして、そういう理解が恐怖を半減させている。
もう一つはろくろ首の意識。自分の同情に動揺している。
判ってくれる娘がいる。その認識が、自分に対する拒絶、攻撃の心理と抗っている。心を覆う鎧を外そうとしている。怒りと憎悪で、二百年の歳月で堅くなった、心の外壁を崩そうとしている。
受け止めてくれる存在を探していたのである。見つけてくれる存在を探していたのである。裏切られ悲しい自分を抱きしめてくれる腕と、わぁわぁ泣かせてくれる胸を探していたのである。
理絵子は抱きしめた。
祖母の身体を通じ、ろくろ首となった女性を抱きしめた。
探してあげる、きっと私が探してあげる。
つらかった。ずっとずっと、誰にも探してもらえず、判ってもらえず、とてもつらかったね……。
でももう、誰も待たなくていい、誰も苦しめなくていい、私が今、あなたを見つけた。
イメージか来る。雑木林。この近くの場所。女性はそこから古井戸へ突き落とされている。
「約束だよ」
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