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【理絵子の夜話】見つからないまま -29-

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「いえ、肝心なのはこれからです。今の女性やその取り巻きのために、子どもたちが出てこられなくなってしまった。今の女性はマンションとは無関係です。マンションの方は子どもたちと接触する必要があります」
 理絵子は言った。子どもたちは今この家を離れている。
 接触するにはマンションに行く必要がある。
 子どもたちは待っている。
 話を聞いてくれる誰かを。
「今から行きます」
 理絵子は言った。行くなら早いほうがいい。さもないと、また今の女性のようなのが、子どもたちの行動に乗じて現れ、居座る。
 それに、幽霊さん一般に言えることとして、接触は夜の方がたやすい。その理由は、理絵子の私見ではあるが、夜や闇に対する人間の本能的な嫌悪感、恐怖感が、“マイナス”の雰囲気を作るから。
「オレも行くぞ。何も判らない方がかえっていいこともあるかも知れないしな」
 優子が言い、布団から起き出した。
「今からかい?」
 祖父の問いかけに娘たちは頷いた。その顔には“気が進まない”と書いてある。
 理由は二つ。娘たちの身の危険、そして理絵子がいない間の怪奇現象への恐怖。
「これを置いて行きます」
 理絵子は独鈷杵を祖父に渡した。
「大丈夫なのかね?」
 理絵子は黙って頷いた。
「彼らは、これが何をするものか知っています。これがここにあるだけで近づこうとしません」
「そうかね。ああ、そうだ」
 祖父は頷くと、何か思い出したようにタンスの上に手を伸ばした。
 携帯電話。
「じいちゃんいつの間に?」
「飯の呼び出しとか、電話のたびに畑から戻るとか、面倒だからな。さ、これを持って行きなさい。何かあったときには連絡を」
「ありがとうございます」
 理絵子は電話を受け取った。
 着替えて懐中電灯片手に家を出る。周辺は家がない上、月も沈んだので真っ暗。波の音もほとんど聞こえない。ただ、静かというわけではなく、ビーという耳障りな虫の声がずっと聞こえ続けている。
 

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