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【大人向けの童話】謎行きバス-59-

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「うん。ミヤマクワガタ。ほら、ごっついでしょ」
「ホントだ。見たことない。え?このクワガタ毛が生えてるの?」
「え?うん」
 実は、由美さんに聞かされたことは、自分にとって結構ショッキングだったのだと、雄一は今さら気付いた。
 彼女が〝毛〟と言っただけで、〝ちんちんに毛が生える〟を思い出し、さらに、この彼女が、今大人の女性に変わり始めているのだ、という風に、考えがつながったからだ。
「ゆう君、変だよ」
 かくして堀長は言った。彼女は彼女で、雄一の変化をびんかんに感じ取ったようだ。
「そう?」
 どきどき。
「うん、何て言うか……今まで私のことさけてるのかなって思ってたけど」
 女の子ってびんかんだなあと雄一はあらためて思った。自分が何となく、彼女の手助けを、〝ありがためいわく〟に思っていたのを、キチンと感じ取っていた、ということであろう。
「そんなこと、ないよ。ただ、ほら、みんながギャーギャー言うと、君にもめいわくだろうな、と思ってただけ」
「なの?……ならいいけどさ。でも、なんかこうやって、ゆう君とおしゃべりしながら歩くの、久しぶりな気がする」
 言われてみれば、と雄一は思った。最近、とくにあいつらが〝らぶらぶ〟とか言うようになってからは、彼女としゃべるにしても、言葉は二つ三つ。
 小さいころは、手をつないで、いっしょに歌を歌いながら、歩いていた。
 その彼女が、いつの間にか自分より大きくなって、
 先に、大人への……
 ああそうか、雄一はふっと合点が行った。
 
 彼女の体の変化もメタモルフォーゼなのだ。
 
 幼虫という子どもからサナギになり。
 そして、美しい翅を持ったチョウという大人になる。
 虫たちのメタモルフォーゼ。
 人間と虫をいっしょにすることは、いけないことなのかも知れない。
 でも、どっちも地球の生き物という点では変わらない。
 

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