【理絵子の夜話】見つからないまま -31-
その集まるメカニズムは、桜井家の雰囲気変化と同じ。
中に入ろう。理絵子がそういう意志を示しただけで、壁で押してくるような拒絶反応。
と、同時に、前方からゆるやかに吹いてくる、驚くほど冷たい気流。
理絵子は優子の手を握った。
それは拒絶反応が起こした風。
「幽霊出るときの風は拒否の意識なんだな」
「この場合はね。全部同じじゃない」
「なるほど」
優子が頷きながら、玄関ホールの脇、管理人室のドアにカギを差し込む。むやみやたらにギシギシ言い、力任せに回すと、ガチャン、と、びっくりする程大きな音で解錠される。
ドアノブを回し、ドアパネルを体重掛けて押し開く。歯に亀裂が入るようなひどい音。
それでもどうにか人間が通れる隙間を確保。暗闇に向かい、懐中電灯をスイッチオン。
が、ランプの明るさほど室内は明るくならない。かろうじて、室内に事務机があるのが判る程度。
中に入る。室内の什器は唯一その事務机。蛍光灯は灯具だけで蛍光管は入っていない。壁にも何もなく、がらんどう。
しかし。
「消してみて」
理絵子は言った。
「え?あ、うん」
優子が懐中電灯のスイッチを切る。
理絵子は、自分が心で見ている光景を、そのまま優子に流した。
「すげ……」
優子が絶句する。それは部屋中の壁に床に天井に、隙間無くびっしりと張り付いた、人が嫌うとされる生き物の数々。
ワニかトカゲのような爬虫類。クモやムカデを思わせる節足動物。
ガチャガチャ音が聞こえるほどに動き回っている。テレビでよく見る東京渋谷のスクランブル交差点のよう。あの数多の人間を全てキモチワルイ生き物に置き換えた。
「わざわざ、こういう姿でいるわけ。怖がらせるために」
理絵子は言うと、事務机の脇を通って、マンション内部へと通じるドアへと歩いた。
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