【理絵子の夜話】見つからないまま -33-
何か落ちてくる。
光の届かない高い位置から何か落ちてくる。
さほど大きくはない。手のひらから少しはみ出す程度。
形が見えてくる。小さな人のような感じ。
人形。
バタッと床に落ちる。赤いスカートを穿いているので、女の子の人形と判る。
但し首はない。
「悪趣味極まりないな」
優子が言う。理絵子の指先でクモが小さな脚を振る。
何か訴えている。
後ろ?
振り返る。
「消して」
優子が懐中電灯を消した。
大蛇。
「すげー」
優子が言う。この吹き抜けホールにまるで合わせたように、下から上までくねくねと身を立ち上らせ、壁に張り付いている大蛇。
二人に姿を見られるや、大蛇はコブラよろしく口を開き、牙を剥いて飛びかかってきた。本当は理絵子たちが人形に気を取られているうちに襲う計画だったようだ。見抜かれた悔しさを強く感じる。
しかし理絵子は動くことも、防御することもなかった。
大蛇が意図する自分たちを“殺す”ことは、できはしないから。
死が虚無そのものではなく、肉体を失うだけの現象に過ぎないことは、他ならぬこの者たちの存在が証明している。
それで死を意識させ、怖がらせることなど無意味。
それに、殺せるほどの力があるなら、昼日中でもできること。
大蛇の牙が理絵子の顔をかすめ、行き過ぎる。
一瞬の風。翻る髪。鋭い痛み。
滴が頬を伝う感触。見ずとも判る。自分の血である。
「りえぼー……」
「かまいたちの実例ってわけ」
理絵子はハンカチを頬に当て、後ろを向いた。床にとぐろし、首の部分を立ち上げて見下ろす巨蛇。
妖怪変化そのものであると知る。ろくろ首なる女性にはまだ人の部分が残っていた。
しかしこれは違う。もう、人であった部分はどこにも残っていない。怨念の権化。
しばし対峙する。お互い相手を力任せにどうにかする能力はない。しかし引き下がる気もまたない。
(アオダイショウの子供)
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