【理絵子の夜話】見つからないまま -34-
大蛇の意識を読む。
守護者としての目的意識。裏切り者に対する怒りの意識。
どうもこの者は、誰かの、“子供たちを守りたい”という意識に応じて出現しており、接近する者を排除する守護者として、ここに居着いているようである。そして、手先として、このクモをはじめ、多くの魑魅魍魎たちをここに引き寄せた。
幽霊マンションの幽霊たるゆえんである。
-その裏切り者をこっちへ引き渡せ。……大蛇の意識が怒りを帯びる。
指先のクモが再び脚を振る。
理絵子は気付く。誰かがいる。
-こっちを見るな襲われる。……鋭い制止の意志。
その意志で、理絵子はその人が誰か知った。
それこそ、ろくろ首なる女性である。生前の名は「はな」。
-それを呼び寄せたのは私だよ。ごめんね……はなさんの意志は語った。
「おはなさん!」
理絵子は蛇を見たまま声を発した。
蛇が注目をわずかに理絵子から離す。
その瞬間。
理絵子の指先からクモが跳躍する。
見る間に、蛇を捕らえるに充分な巨大グモへと変化し、蛇に挑みかかる。
蛇が牙を剥く。
その牙めがけ、クモが尾部から糸を吹き付ける。
巨大な妖怪同士の格闘。巨体がのたうち、長い脚が入り乱れ、白い糸が乱舞する。但し音はなく、能力のないものには風を感じるだけで見えることはない。
-今のうちに。
はなさんは言い、理絵子に行き先を示した。
このホールの海岸方向、廊下の先端、ドアを抜けて前庭。
理絵子が優子の手を引き、二人して廊下を走る。はなさんの姿は見えないが、確かにそこにいる。
ガラスのドアに行き着く。石でもぶつけられたか割れているが、こぶし大であり、人は通れない。
カギを出すため懐中電灯をつける。
その瞬間。
「うわっ!」
夥しい数の小さく跳ねるものが、天井からバラバラ落ちてくる。
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