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【理絵子の夜話】見つからないまま -35-

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 黒くて硬い、トゲのようなものが無数に生えた異形の生物。
 首筋に背中にそれらが落下し、足の爪を肌に食い込ませて止まる。ちくちくしたものが動き回り、やがて襟首から中に入り込むおぞまし……。
「違う!便所コオロギ!」
 理絵子の認識を優子が否定した。
 ハッと目覚めたように意識がすっきりする。
 焦点合わせればカマドウマ。翅のないコオロギの仲間。暗がりに集まる性質を持つ。
 それだけである。判ってしまえば慌てることはない。
「ありがとう」
 理絵子は言った。危うく欺されるところ。また優子に助けられた。
“何も判らない方がかえっていいこともあるかも知れない”まさにその通り。
 二人は頭や背中の動きぶりを感じつつ、ガラスのドアを、開けた。
 
 
 波の音が聞こえている。
 マンション前庭には遊具が少しあり、小さな子どもたちが遊べるようになっている。
 だが。
 海岸近くであり、無人のままで使われることのなかった遊具類は、錆を吹いてみんなぼろぼろ。
 滑り台、ブランコ、鉄棒、ジャングルジム。
 ブランコがキイと動いた。風はないが。
「電気消して」
 理絵子は優子に言った。
 ここからはテレパシーが必要になる。
〈あんたたち何しに来たの?〉
 とげのある、若い女の“声”がした。
〈おばあちゃん、この子は何だい?〉
 おばあちゃん……はなさんのことである。
 そして、この若い女こそ、桜井家で目撃された子どものうちのひとりだ。
 ついにたどりついた。
 だが、“声”だけで、超感覚で見ても姿が見えない。
〈この子はりえちゃん。お前たちを見つけてもらうために来てもらったの〉
〈嘘〉
 女の“声”が言った。
〈こんな、のほほんとした娘(こ)に何も判らないよ。どうせまたここを売ってひと儲けしようとする人間の手先でしょ〉
 女の“目線”を理絵子は感じた。
 

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