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【理絵子の夜話】見つからないまま -36-

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 その拒否と反発は、自分の過去を見られたくない意識の表れ。
〈探るんじゃないよ〉
 トーンが低く、堂に入った、恫喝という表現が使える“声”で、彼女は言った。
〈邪魔するんじゃねぇよ。俺たちはここで金儲けしようとする奴らを永遠に苦しめてやるんだ〉
〈嘘〉
 今度は理絵子が言った。
〈だったらなぜ、桜井の祖母の前にずっと現れたの?私をここから追い出そうとしないの?しかも小学生くらいの姿だったでしょう?。苦しめるなら……〉
〈うるせぇんだよ!〉
 彼女……名はゆきえと判じた……は、理絵子の意志をかき消すように、声にたとえるなら怒鳴るように、強い意識を発した。
 が、次の刹那。
〈判るかよ。お前みたいな幸せ一杯の奴に判るかよ。家があって両親がいて友達がいて……お前なんかに判るかよ!〉
 理絵子は見た。
 闇の中から浮かび上がってくる少女、汚れたジャージを着、土の上に泣き崩れる少女の姿を。
 年齢は自分とそう離れておるまい。突っ張って突っ張って生きてきて、そしてついに力尽きた少女の姿を。
 ブランコから飛び降りる足音。
 こちらへ走ってくる。
〈お前、姉ちゃんに何やった!〉
 パッと目の前に現れる、鋭く糾弾する幼い男の子。
 こちらは桜井家に現れたそのままの姿である。やはり汚れた服を着た男の子。
 理絵子はしゃがみ込み、男の子の目をじっと見つめた。
〈ごめんね。……ようへい君か。あなたのお姉ちゃんに判ってもらいたくって〉
〈お姉ちゃんいじめる奴はオレが許さないぞ〉
 男の子……ようへい君は理絵子を殴ろうとした。
 しかし、小さな拳はすりぬけてしまう。
〈あれ?〉
 少女……ゆきえが、理絵子に向け意志を発したのはその時。
〈その子に真実を教えないで!〉
 イコール、ようへい君は。
 
 自分が死んだことを知らない。
 

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