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【理絵子の夜話】見つからないまま -37-

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 ずきっ……言葉で書けばそんな痛みが、理絵子の胸を襲い、身体をぐらつかせた。
 抱きしめる。ただ何も考えず目の前の少年を抱きしめる。
 手のひらに、頬に触れるものは何もない。
 でも理絵子には判る。ここに男の子がいる。形はなくても彼はここにいる。
 理絵子は見た。
 男の子の楽しかった日々。父はいない。母と姉弟と、ここに元々あった家は古かったが、住むには充分だった。姉弟は、草原を海岸を庭に楽しく暮らした。
 そこへ悲劇が訪れる。母親が交通事故で亡くなった。
 収入源を失う二人。しかし、大家さんは優しかった。二人を養子としてひきとり、そのまま暮らして良いと言ってくれたのだ。
 だが、程なく大家さんはいなくなった。
 連日、黒い背広の男が現れるようになり、二人に立ち退きを迫った。ここは元の大家さんから借金のカタとして自分に渡ったと説明された。
 そしてある日、学校から帰るとそこには何も無かった。
 取り壊されていたのだ。
〈お姉ちゃん、こいつ泣いた〉
 ようへい君はゆきえに報告した。
 ゆきえがゆっくり“身体”を起こす。
〈もういいよようへい、もういいよ〉
〈うん。ザマ見ろ〉
 ようへい君は理絵子に向かってべーっと舌を出すと、ゆきえの元へ走り寄った。
〈お前みたいな奴初めてだよ〉
 ゆきえは言った。
〈見つけるって、本当か?〉
 理絵子は頷いた。
“排除”しに来たのでは、決してない。
〈こっちだよ。おばあちゃん、ようへいとちょっと遊んでいて〉
 ゆきえは言うと、海岸へ向かって歩き出した。
 
10
 
 マンションのプライベートビーチを左方へ向かう。
 そちらには先ほどバイクでかけ下った崖が伸びてきており、そのまま海へ落ちている。
 従って、砂浜はゴツゴツした岩場で終点。
「ここならオレしょっちゅう来てたぞ」
 と優子。
〈今は引き潮だから大丈夫だな。気をつけて〉
 ゆきえが言った。
 

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