【理絵子の夜話】見つからないまま -39-
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「悪かったよ」
優子は言った。
「そんなつもりはなかったよ。ただ、あんたにも、近くに相談できる人がいれば……」
優子は口をつぐんだ。
理絵子は携帯電話のロックを解いた。ここから先の話は父親に任すべきだ。
「じいちゃん呼ぶのか?」
「ううん、父親」
「警察か」
「私たちの手に負えるレベルじゃないし……」
「それで黒背広つかまるのか?」
「確か同意無く追い出したりはできないはず。前の大家は登記簿とか見れば判ると思うし、ゆきえさんたちが住んでいたかどうかは学校の名簿にあるでしょう」
理絵子は言うと、携帯電話の発信ボタンを押した。
「……黒野竜一(りゅういち)さんの携帯はこちら……ああお父さんあたし。優子ちゃんのおじいさまから借りたの。……うん、そう。悲しい出来事。住所言うから手配を」
理絵子はマンションの住所と名前を告げ、電話を切った。
〈ありがとう〉
と、ゆきえ。
〈このくらいしかできないけどね。出てもいいかな。警察案内しないと〉
〈うん〉
再び穴から外へ出る。
夜明け間近を示す群青の空。
立ち並ぶ岩と岩の間に海水が少し。潮が満ち始めたのだ。
「危なく閉じこめられるところだったぜ」
〈それなら大丈夫〉
言ったのははなさん。
ようへい君も一緒。
〈ごめんね。ようへい君がお姉ちゃんどこ、って言うもんだから。この穴はね、反対側は古井戸さ。元々ここには水が流れていてね。水汲みすぎて、降ったときしか流れない枯れ川になっちまったのさ。最も、そっちから出ようとすると、私もいるわけだけど〉
はなさんは言った。はなさんがここで亡くなって200年。彷徨う彼女の前に現れた姉弟に対し、孫を持ったようなかわいさと共に、身の上に同情し、怒りを覚えた。以来、ここに共に住まい、ここを金儲けの道具に…地上げする者たちを攻撃してきた。同時に、いつか怒りに報いてくれる人を、と待っていたのである。
(つづく)
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