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2019年5月25日 (土)

【理絵子の夜話】圏外 -04-

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 出発は土曜日ということもあり、早朝の駅は閑散としている。
 小鳥がさえずり、駅の至近まで迫る山並みからは、涼しい風が吹き降りている。
 が、駅の入口、社殿を思わせる建屋の下で、女の子が数名、涼やかな風景とは裏腹にぐったりと座っている。
「部長。先立つ不幸をお許し下さい」
「列車でやると止まった分の請求が遺族に行くし、そこの山に入ると骨になるまで見つけてもらえないから不許可」
「マジレスされちゃったよ」
 解説せねばなるまい。既に空になったペットボトルを手に、“自殺発言”したのは、1年生の窪川由紀子である。駅に来るまでに死にたいほどへばったという冗談だ。他方、理絵子の回答は、この駅から東京へ向かう路線で自殺が頻発していること、そして、背後の山がやはり自殺の名所であり、自然保護林であることから、遊歩道以外の場所に立ち入る人が少なく、故に“数年経過した状態”で見つかることが多いのを踏まえてのものだ。ちなみに、“マジレス”とは“真面目なレスポンス”のことで、インターネットの掲示板等で書き込みに対し、真面目に返答するの意である。21世紀初頭のインターネットの一般化で、日常会話にも使われるようになった。
「歩いてきたわけ?」
 理絵子は問いかける。バスの始発は6時過ぎ。従ってこの時間に駅へ来るには、歩くか、車に乗せてもらうか、それとも自転車か。しかし、自転車に乗る際にはヘルメット着用が校則で義務づけのため、こうした遠出には不向きである。
 若井さつきが頷いた。
「はい~。送ってと頼んだけど朝早いからイヤだって。若者が体使わずにどうすると。それが親の言う言葉かと。ね。」
「うん」
 窪川と頷きあう。なんでも、二人は家が近い上に、幼稚園の時からずっと同じクラスだとか。
「そりゃお疲れさん。えーっと」
 理絵子は言って見渡す。この場にいるのは自分含め7人。あとは田島だけ。
 出発時刻まで10分。
 と、バスも入れないような駅前広場に入ってくる、軽自動車一台。
 タクシーと二重駐車し、助手席から降りてくる少女一名。
 そこはその狭さゆえ一般車両進入禁止であり、おのずと周囲のタクシーから怒号のようなクラクション。
「ごめーん」
 走ってくるのは田島である。軽自動車が逃げるように駅前広場から出て行く。
 その田島を7人がそろって指差す。
「ずるい」(7人一斉)
 早朝の駅に突如響く女の子達の声に、タクシー運転手達が思わず見やる。
「だって遅れちゃイカンでござろ?ハイ。お詫び兼ワイロ」
 田島はコンビニストアのビニール袋を差し出した。
「お、我らの朝飯」
「おぬしも相当、悪よのう」
「盛り上がってるとこ悪いけど急いで」
 理絵子はクールに言った。このままお喋りに花が咲けば、当然の事ながら電車に乗り遅れる。
「あ、はーい」
「えーと切符組は?」
 理絵子はあらかじめ買っておいた回数券を取り出した。11枚セットで1枚分がサービスになるだけだが、少しでも節約だ。
 切符を改札機に通すガチャンという音、そしてICカードをかざすピピッという電子音が、いやに大きく響く。
「45分発は4番線。階段登って向こう。ホームに天狗の石像あるからその前へ」
「指定が細かっ!」
 そこへ駅のアナウンス。1番線に東京方面から電車が来る。
「走る。コレが到着すると混むから」
「え?なんで?」
「いいから」
 少女達は線路をまたぐ陸橋(跨線橋・こせんきょう)をバタバタと走って行く。

(つづく)

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